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福岡高等裁判所 昭和25年(う)1932号 判決 1950年12月25日

被告人

金城武雄こと

金森彌次郎

外三名

主文

原判決中被告人等関係部分を破棄する。

被告人金森を懲役一年六月に、同染森、同田浦を各懲役十月に、同赤司を懲役一年に夫々処する。

原審における未決勾留日数中被告人金森同染森に対し各五十日を、同赤司に対し三十五日を夫々右各本刑に算入する。

被告人染森、同田浦に対しこの裁判確定の日から何れも三年間右刑の執行を猶予する。押収した木材六十五石の換価代金四万円、リンゴ七十五箱の換価代金一万六千三百六十五円、大根漬二十樽の換価代金一万円、ソース十箱の換価代金七千六百四十円、麦藁帽子四百十個の換価代金一万二千円、釣竿三十四本の換価代金三百五十円を被告人金森、同染森及び原審相被告人石井清志、同伊波清金から、畳表二百枚の換価代金一万六千百十円、花ござ百五十枚の換価代金一万五百二十円を被告人田浦から夫々没収する。被告人金森から金一万四千五百円を、同赤司から金一万九千円を、同金森同赤司の両名から金六千七百七十六円を夫々追徴する。

理由

石坂弁護人の控訴趣意の第一点(法令適用の誤)について。

被告人田浦が税関の免許を受けないで沖繩向けに仕立てられた新響丸に原判決摘示第四の日時、場所で原判示の畳表、花ござを積込んで出航したことは原判決挙示の証拠で明認することができる。そして一旦船積出航した以上は之の船がまだわが国の領海内か又は目的地到着前わが国の港に寄港中であつても密輸出は既遂となるのであるから、原判決が同被告人の所為を密輸出の既遂と認め刑法第四十三条を適用しなかつたことは相当であつて論旨は採るに足らない。

(弁護人石坂繁の控訴趣意)

第一点 原判決は法令の適用に誤りがあつて、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明かであると思料致します。原判決は被告人が「昭和二十五年四月頃熊本県飽託郡川口村海岸に於て新響丸に畳表二百枚、花ござ百五十枚を積込んで同所を出発した」趣旨の事実の認定の下に被告人を懲役十月に処してゐる。

被告人が判示の場所に於て判示の物品を積込んだ新響丸が出発した事実は相違ない。が被告人等は右新響丸が漸く大牟田経由島原港に寄港した際に検挙せられたものである。然るに、

熊本県飽託郡川口村大牟田島原に沿う海面即ち有明海は沿岸海(最低潮時に於ける水陸の界線より三海里以内)であつて、狭義の領海に相当するものであるから被告人が原判決摘示の行為を以て関税法第七十六条第一項に所謂「輸出」を為したものとは認められない、之は輸出の未遂として刑法第四十三条を適用すべきである。然るに之を適用しなかつた原判決は此点に於て法令の適用に誤りがあり而も刑法第四十三条は刑を減軽することが出来るから判決に影響を及ぼすことが明かであると云うべきである。

(註、本件は量刑不当により破棄自判)

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